2019年3月9日土曜日

人助け

先日のことであります。その日は出張で、駅から地下鉄に乗り目的地へ向かう朝の出来事でした。慣れない電車に運賃表をじっくりと眺め、目的地までの切符を購入し、券売機から踵を返して改札口へ向かうその瞬間でした。

「あのぅ・・・」

知り合いもいないはずの土地で声をかけられます。私?私に声掛けてます?

「はい。あのう・・・」

やっぱり私に声を掛けているようですね。となると考えられるのは2つ。

①何らかの勧誘
②道を尋ねられる

こんなところでしょうか。残念ながら何も買うつもりもないしセミナーに参加するヒマも無い、そして尋ねられても土地勘はありません。しかしお断りするにしても、そのまま無視を決め込むのではなく「お断りをする」意思見せるべきと・・・。
声の主を見やると、そこには高齢のご婦人。年の頃は80歳を超えているでしょうか。小奇麗な身なりで、ご婦人というよりは貴婦人と言った装いです。これは無視できませんね。お話を伺うべきと判断します。

「これから急いで電車に乗って行かなきゃいけないんですが・・・財布を忘れてしまって」

ここで頭をよぎる四字熟語、「寸借詐欺」。
しかし目の前にいらっしゃるのは、いかにも品の良いご婦人もとい貴婦人。

「○○駅まで800円かかるんですが、貸していただけませんか?」

いやいやしかしお貸しするといってもワタシ地元じゃないですし困・・・

「ご住所を教えていただければすぐにお返しいたしますので・・・」

畳み掛けるご婦人。これがこのご婦人でなければにべも無くお断りする案件ではありますが、いかにもお困りのご高齢の婦人を見捨てるような真似ができるのか?

できるのか?

できるのか??

無理!

1000円札をお貸しし、住所を教え、ご婦人と別れ仕事に向かったのでありました。
甘いですか?甘いですよね、私。見知らぬ人にお金を渡し、個人情報まで渡してるんですから。しかし良いんです。結果がどうであろうと、1000円で徳を積んだと思えば。
それにほら、もしかしたらこのご婦人は亀の化身で、竜宮城にご招待いただけるかも知れないじゃないですか。あるいは鶴の化身で、自らの羽根を織ってくれるかも知れないじゃないですか。

ところでご婦人に住所を教えた折、
「私今日、出張でして、長野から出てきてるんですよー」
「あらー、私も長野は大好きでよく行くんですのよー。どちらから?」
「伊那といいましてね、南の方の・・・」」
「あー、高遠の桜のところでございますわねー」

・・・なんて短い雑談をキッチリ交わすあたり、自分は福祉の仕事もできんじゃねーかなんて自画自賛をしてみるところです。

あれから一週間、何の音も沙汰も無いのは、鯛や平目が舞い踊りの練習中なんです。
そうです。きっとそうに違いない。